印刷知識! はじめの第一歩 ~印刷方式と印刷の前提要素~
私たちの身の回りは「印刷物」であふれています。これにも、それにも、あれにも何かしらの形で「印刷」が関わっており、身近過ぎて意識することがあまりないかもしれません。
具体的な印刷物を思い浮かべると、書籍に新聞や雑誌、ポスター、チラシやパンフレット、商品ラベル、パッケージ、服やタオルなどなど枚挙にいとまがありません。
書籍や雑誌は「出版印刷」、企業や商品などの宣伝に利用されるチラシやカタログは「商業印刷」と区分されるように、「印刷物」と一口に言っても種類はさまざまで、種類や用途に応じていろいろな「印刷方式」が使い分けられています。
近年では計5つに分類される印刷方式の原理や仕組み、特徴や得手不得手を知れば、実際に印刷物を制作したり発注したりする際に、目的に合致する最適な「印刷方式」を選択することができます!
その第一歩として、まずは「印刷」の全体像を把握しましょう。
- 目次
1.5つの印刷方式
[1]有版印刷と無版印刷
数百、千や万単位におよぶ大量印刷には、「印刷版(以下、「版」)・インキ・紙などの被印刷体」が欠かせません。ハンコを例に考えると、ハンコそのものが「版」で朱肉が「インキ」、押印する書類が「被印刷体」です。
近年の印刷方式は「版」に着目して5つに分類できます(図1の①~⑤)。
まず「版」があるかないか、すなわち「有版印刷」と「無版印刷」に大別します。
次に有版印刷では、使用する版の形状によって「凸版印刷」「凹版印刷」「平版印刷」「孔版印刷」という4つの方式に分岐し、この区分を「四大版式」といいます。
一方の無版印刷は、文字通り「版」を必要としない印刷方式のことで「デジタル印刷」のことを指します。
学校や職場などのプリンターを思い浮かべてください。パソコン画面上の「印刷(プリント)」ボタンをクリックするだけで出力されますよね。それがまさに「デジタル印刷」です。有版印刷よりも身近な存在といえるでしょう。
印刷会社におけるデジタル印刷は、職場などで使われているプリンターや複合機のパワーアップ版(より高品質かつスピーディーに印刷できる)と捉えてください。
余談ですが「デジタル印刷」の対義語として、有版印刷のことを「アナログ印刷」と呼ぶこともあります。
図1 5つの印刷方式(①〜⑤)
[2]有版印刷における四大版式の概要
版の形状、インキの付着部分や付着方法が異なる四大版式(「凸版」「凹版」「平版」「孔版」)。それぞれの得意分野において印刷が行われており、4つの版の印刷原理や特徴を知ることは、印刷のさらなる理解につながります。
凸版(とっぱん)〈現在の主な印刷物:段ボール・シール・ラベル・紙袋・フィルム包装など〉
四大版式の中で、最も歴史を持つ印刷方式です。版がデコボコなのが特徴で、出っ張った部分(凸部)にインキを付着させて印刷します。基本的にハンコと同じ仕組みです。
凸版印刷の一種である「活版印刷」が1970年頃までの主流な印刷方式でした。より生産性の高い印刷方式が登場して以来、活版印刷による印刷物は減少傾向にありますが、近年ではダンボールや紙袋の印刷で主に活用される「フレキソ印刷」が注目を浴びています。
凹版(おうはん)〈現在の主な印刷物:各種フィルム包装・壁紙や化粧合板といった各種建材など〉
凸版印刷とは反対の印刷方式。デコボコした版のくぼみ(凹部)にインクを詰めて印刷します。くぼみの深さによって、インキの付着量を調整でき、豊かな濃淡表現が魅力です。現在は紙幣などの偽造防止が不可欠な印刷物(彫刻凹版印刷)やペットボトルのラベルといったフィルム包装の印刷(グラビア印刷)において重宝されています。
平版印刷(へいはん)〈現在の主な印刷物:雑誌・書籍・新聞・カタログ・チラシ・パッケージ・など〉
文字通り、デコボコのない平らな版を使用し、水と油の反発作用によって印刷を行います。原点は18世紀末に発明された石版印刷ですが、インキを紙へ間接的に転写させる「オフセット印刷」が確立されてからは、「平版オフセット印刷」が今日の印刷物の大半(約7割)を占めるまでに発展しました。
孔版印刷(こうはん)〈現在の主な印刷物:オリジナルTシャツ・各種アパレル製品・プリント基板など〉
版にあいた穴へインキを通過させて印刷します。「ガリ版」や「シルクスクリーン」という言葉は聞き馴染みがあるかもしれません。紙だけでなく布、金属やプラスチック、曲面などへの印刷が可能という点が大きな特徴で、近年では電子機器産業において活躍の場を広げています。
[3]無版印刷の概要
無版印刷であるデジタル印刷は、有版印刷に不可欠な「版」を用いず、パソコン上で作成したデータから直に印刷する方式です。
版が不要ということは、版を作る工程(製版工程)や印刷機への取り付け作業も不要なので、平版オフセット印刷よりも短い時間(短納期)で印刷が可能です。
さらに、宛名などの一枚ごとに異なる情報を印刷する「バリアブル印刷(可変印刷)」は、無版であるデジタル印刷ならではの手法です。
少ない部数の印刷では平版オフセット印刷よりも低コストであるものの、印刷部数が多いと逆に高コストになってしまうため、大量印刷には向かず、現状では「小ロット印刷」を得意としています。
一昔前のデジタル印刷は、仕上がり品質において平版オフセット印刷に劣っていましたが、近年の技術進歩によってその弱点が補完されつつあります。
2.「印刷」における3つの前提要素
[1]圧力の加え方
ハンコを押す際に、グッと力を入れますよね。ゆえに「印刷」=「加圧(プレス)」です。
したがって、印刷業界では「刷る(インキを紙などの被印刷体へ転写させる)」工程を「プレス」といい、有版印刷の各種版をつくる工程を「プリプレス」、刷った後の工程(紙を断裁したり本にしたりする加工工程)のことを「ポストプレス」といいます。
さて加圧では、圧力の加え方によって「平圧式印刷機(平圧式)」「円圧式印刷機(円圧式)」「輪転式印刷機(輪転式)」の3つに印刷機の種類が大別されます。
高速・大量印刷の需要が多い現代では、板状の版を円筒形回転体に装着する「輪転式印刷機」が主流です。書籍などでよく見かける印刷の仕組みの模式図では「輪転式」の説明がなされているわけです。
図6(凸版印刷における3つの加圧方法)
スピード :平圧式<円圧式<輪転式
印刷量 :平圧式<円圧式<輪転式
●平圧式:板状の版(版盤)に平らな圧盤を押しつけて印刷するため、大きな圧力が必要。面積の大きな印刷には向かない。
●円圧式:板状の版(版盤)に円筒形の圧胴を押しつけて印刷する。版盤が水平方向に往復運動し、圧胴が定位置で回転運動を繰り返す。接触部分の面積は小さくなるため、圧力は小さくてすむ。面積の大きな印刷が可能。
●輪転式:円筒形の版(版胴)と円筒形の圧胴を線接触させて印刷する。大きな面積の印刷が可能なうえ、速い。
[2]インキの転写方法
版に付着したインキを紙などの被印刷体へ転写する方法は2つあります。
ハンコは朱肉をつけて紙へ直に押しますよね。そのように版から紙へ直接インキを転写することを「直刷り」といい、インキを紙以外に移して、そこから紙へインキを間接的に転写することを「オフセット印刷」といいます。
版面の絵柄部分についたインキを、ゴムでできたブランケット胴の表面にいったん転写し、ブランケット胴と圧胴間を通過する紙へと再び転写する、というのがオフセット印刷の仕組みです。
図7(平版オフセット印刷の仕組み)
このように「オフセット印刷」というのは本来、印刷内容の元となる版と紙が直接触れない技術を意味しています。
しかし「今日、紙の印刷物の多くは『オフセット印刷』で製作されている」といった一般的な文脈で用いられる「オフセット印刷」や印刷業界の人間が口にする「オフセット印刷」は、「平版オフセット印刷」のことを指しているため、少し注意が必要です。
厳密に言うと「オフセット印刷=平版印刷」は間違いですので、頭の片隅で覚えておいてください!
[3]印刷媒体の形状
印刷媒体の代表格は「紙」ですが、絵柄が印刷され製本などの後加工がなされる前の紙、すなわち印刷機に給紙される紙の形状には「枚葉紙(シート紙)」と「巻取紙(ロール紙)」の2種があります。
印刷に用いられる紙は、原料を漉いて製紙された後、トイレットペーパーのように巻き取られます。
文字通りですが、巻き取られた状態のままの紙が「巻取紙(ロール紙)」で、巻取紙を所定の寸法や紙の目の流れに沿って断裁した紙が「枚葉紙(シート紙)」です。1枚、2枚、3枚…と数えられるから「枚葉」というそうです。
したがって、印刷機に給紙する紙の形状によって「枚葉印刷機」や「巻取印刷機」と分類されます…と言いたいところなのですが、後者は異なります。
「巻取紙(ロール紙)」を給紙する印刷は「輪転印刷」と呼ばれているのです。なんだと!
「(1)圧力の加え方」で先述したように、「輪転」というのは加圧方法の一つです。
枚葉印刷機の加圧方法も輪転式なのに、枚葉印刷機は枚葉機。一方で巻取印刷機は輪転機。
省略するところが違うんかい!ってだけなのですが、実にややこしいですね。
●(平版)オフセット印刷を例にすると…
・輪転式(平版)オフセット枚葉印刷機→オフセット枚葉印刷(機)〈=枚葉オフセット印刷〉
・輪転式(平版)オフセット巻取印刷機→オフセット輪転印刷(機)〈=輪転オフセット印刷〉
※オフセット輪転印刷はさらに「オフ輪」と略称されることも。新人時代は「オフ輪ってなんやねん」って思っていました(笑)。これで完璧に理解できましたね!
とても細かな部分に引っかかってしまいましたが、印刷業界の慣習的には下記を覚えておけば大丈夫です~!
●「枚葉印刷」=シート状(一枚一枚バラバラ)の紙を印刷機に給紙
●「輪転印刷」=ロール状の紙を印刷機に給紙
ここまでご覧いただきありがとうございます!
今回の要点をまとめると、以下の通りです! お疲れ様でした!
まとめ
●現代の印刷方式は5つに分類され、それぞれの特性を生かした印刷が行われている。
→①凸版印刷 ②凹版印刷 ③平版印刷 ④孔版印刷 ⑤デジタル印刷
●版が不要なデジタル印刷は、「短納期対応」「バリアブル印刷」「小ロット印刷」で活用されている。
●印刷=加圧(プレス)。加圧方法には3種類あり(平圧式・円圧式・輪転式)、高速・大量印刷の技術が確立した現代では「輪転式」が主流。
●インキの転写方法は2種類。紙へ直接転写する方法を「直刷り」といい、間接的に転写する方法を「オフセット印刷」という。
●印刷機に給紙する紙の形状は「枚葉紙(シート紙)」と「巻取紙(ロール紙)」の2種類。枚葉紙を給紙する印刷または印刷機は「枚葉印刷(機)」で、巻取紙を給紙する印刷または印刷機は「輪転印刷(機)」と呼ばれている。
参考文献
●生田信一(2017)『[改訂版]印刷メディアディレクション』株式会社ボーンデジタル
●佐藤利文(2019)『みんなの印刷入門』JAGAT(公益社団法人日本印刷技術協会)
●生田信一・西村希美・加藤諒編(2021)『DTP&印刷スーパーしくみ事典2021』株式会社ボーンデジタル
参考サイト
株式会社新晃社「【オフセット印刷】輪転機と枚葉機って何が違うの?」
閲覧日:2021年7月13日
株式会社吉田印刷所(中嶋隆吉)「紙への道:紙の基礎講座 印刷編(9-1) 印刷機の分類・種類1」
閲覧日:2021年7月14日
一般社団法人 日本印刷産業連合会「印刷用語集」
閲覧日:2021年7月14日
株式会社吉田印刷所「DTP・印刷用語集」
閲覧日:2021年7月14日