インキ

印刷入門者向け!人生いろいろ インキもいろいろ

平版オフセット印刷などの有版印刷に欠かせない資材は「版」「紙などの被印刷体」「インキ」の3つです。どんな紙に印刷するのかを考えることはあっても、どんなインキで印刷するかを深く考える機会はあまりないかもしれません。

しかし! インキによって得意な表現・苦手な表現、そのインキでないとできない表現があるなどなど、知っておいて損はない情報がてんこ盛り! そして、さまざまなインキの特徴を知っておけば、クリエイティブの幅が広がること間違いなしです!

ところがどっこい。

版式や印刷機の種類、被印刷体の素材、後加工の有無などによって見事に使い分けられるインキの種類は多岐にわたり、数えるとこれまたキリがありません…。

というわけで今回は、一般的な印刷物の制作現場すなわち平版オフセット印刷で用いられるインキについて深堀したいと思います!

1.フルカラー印刷の仕組み

インキの話に入る前に、カラー印刷の「そもそも」を振り返っておきましょう!

フルカラー印刷は「Cyan(シアン)・Magenta(マゼンタ)・Yellow(イエロー)・Black(ブラック)」の4色で構成されています(それぞれの頭文字をとった「CMYK」という単語は印刷業界で飛び交う重要用語の一つです)。

印刷物を専用ルーペでのぞきこむと、小さな点の集まり(一つ一つの点を「網点」と言います)が確認

できます。美術の授業などで取り組む「点描」をイメージすると分かりやすいかもしれません。

CMYKのインキそのものは透明で、数え切れない網点の重なり(=CMYKの組み合わせ)によってさまざまな色が表現されているというわけです。

そして、色の濃淡は網点のサイズによって再現されます。網点のサイズが大きければ「濃い色」、網点のサイズが小さければ「薄い(淡い)色」になります。

絵の具のように濃さに合わせて色と色を混ぜるのではなく、網点の大きさによって紙に対するインキの密度(割合〈%〉)を調整し、目の錯覚を利用して濃度の違いを表現しているのです…! ちなみにパソコン上で作成したデジタルデータを網点化することを「スクリーニング」といいます。

CMYKの4つに分版され、印刷中は4色のインキが乾燥を待つことなく高速に塗り重ねられていきます。

そのため、インキの色やインキ粘度の強弱を考慮して、基本的に「K→C→M→Y」の順番に印刷されます(印刷内容によっては、刷り順を変更する場合もあります)。

つまり、暗いインキから明るいインキへ、かつ粘度の強いインキから粘度の弱いインキへという順に印刷するというわけです。ちなみにインキの粘度は各メーカーの製造段階時点で調整されているそうです。

2.インキの色や性質による分類

1]プロセスインキ

さて、ここからが今回の本題です!

フルカラー印刷を支える4色、すなわち「シアン(C/藍)・マゼンタ(M/紅)・イエロー(Y/黄)・ブラック(K/墨)」のインキを総称して「プロセスインキ(プロセスカラー)」といいます。

フルカラー印刷は4色で再現していると前述しましたが、色の理論にもとづけばCMYの3色さえあればフルカラーを再現できるのです。

どういうことかというと、「色材の3原色」であるCMYは、混ぜれば混ぜるほど暗くなり3色を同率で混色していくと黒に近づいていきます。この現象を「減法混色」と言うのですが、そうなると理論上では黒インキは不要になります。ではなぜブラックインキをわざわざ足すのか、という疑問が浮かびます。

確かに理論上では、CMY3色のインキがあればほとんど全ての色を再現できます。しかし! インキは色材(顔料)だけでなくビヒクルや助剤といったさまざまな成分で構成されているため、純正の色を再現できているわけではないのです。

つまり、CMY3色のインキを同率で混ぜ合わせても「黒色」を再現することは不可能なので、黒色を補うためにブラックインキを加え、CMYK4色がプロセスインキとして使用されているというわけです!

余談ですが、CMYKの「K」はKuroの「K」でもBlackの「K」でもなく「Key Plate」の「K」です。

ブラックインキは絵柄の輪郭にメリハリをつけたり、文字の鮮明性を高めたりといった重要な役割を担っています。そのためブラックインキを刷る版のことを「Key Plate(版は英語でPlate)」と呼ぶようになり、頭文字の「K」が色材の3原色CMYと肩を並べるようになったというわけなのです!

ちなみに、印刷業界におけるブラックインキの通称は「スミ」です。ややこしや~! ややこしや!

そして、いくらほとんど全ての色を再現できるCMYK4色のプロセスカラーといえど、「白色」を表現することはできません。

つまり、プロセスカラー印刷において「白色」を用いる場合の正解は「インキを使わない」です。

インキを使わないということは、「紙の色」を活用するに他なりません。用紙の白さ=白色なので、用紙選びが鍵を握るといえます…!

また、プロセスインキは大量に生産されているため、印刷コストは後述の「特色インキ」や「特殊インキ」より割安になります。

[2特色インキ

CMYKの4色でほとんど全ての色を再現できるプロセスインキって最強…! というフレーズが頭を一瞬よぎりますが、プロセスインキには苦手な色があります。

淡い色や鮮やかな色、例えばオレンジ色などは、色がくすんでしまいがち(黒ずんで渋い色になりがち)なのです。

加えて、カラー印刷はCMYKの4色を掛け合わせて(網点を重ね合わせて)さまざまな色を再現するため、毎回同じ色で印刷できるわけでもありません…。

そこで助太刀してくれるのが「特色インキ」です!

「特色インキ」を使えば、プロセスカラーだけでは表現できない色を単色でバシッと印刷することができます。上図を見比べれば発色の違いが分かると思います…!

また、プロセスインキが不得手とする色だけでなく、企業のコーポレートカラーといった「必ずこの色で印刷する」と定められている印刷物の場合にも「特色インキ」を使用します。

この「特色」は、プロセスインキや中間色と呼ばれる10~25色の基本色インキを混ぜ合わせたり、複数の特色インキを混色したりして、基本的に印刷する都度、印刷会社が作成します。

実際に発注する際は、インキメーカーが販売するカラーガイドやカラーチップ(各メーカーがインキの番号を定めています)を利用して特色インキを指定します。日本では主に「DIC(DICグラフィックス/日本)」・「Pantone(Pantone LLC/米国)」・「TOYO Color Finder(東洋インキ/日本)」の3種から選ぶのが一般的です。

DIC
Pantone
TOYO Color Finder

特色インキの色数は数千色と膨大なため、印刷会社が常時インキの在庫を抱えているわけではありません。特色インキを使用したい場合は、印刷会社へあらかじめ相談することが大切です。

また、プロセスインキ4色に特色を加える「多色印刷(5色以上)」の印刷コストは、プロセスカラー印刷より割高です。そのため闇雲な特色インキの使用はオススメできません。インキカラーの特徴をそのまま生かし、コストに見合う効果が期待できる場合に活用しましょう!

[3特殊インキ

そしてプロセスインキや特色インキには不可能な表現を実現するのが「特殊インキ」です。

平版オフセット印刷に対応している代表的な特殊インキには「白インキ」「金・銀・パールインキ」「蛍光インキ」「香料インキ」「感温インキ」「ブラックライト発光インキ」などが挙げられます。

それぞれの概要は次の通りです!

白インキ=オペークホワイト

平版オフセット印刷では、白い紙への印刷が大半ですが、デザイン

の一環で着色紙へ刷ったり、濃い着色紙へカラー印刷する際の下地

として使用したりします。

プロセスインキと違ってオペークインキは不透明ですが、一度刷った

だけでは完全に用紙の色を遮蔽できず、インキを複数回重ねることで

(コストはかさみますが…)、より強い「白」を発色させることができます。

金・銀・パールインキ

いずれも金属のような光沢を表現できるインキです。

そもそもの顔料が異なるため、プロセスインキや特色インキの練り

合わせでは絶対に表現できない色彩を実現します。

金は真鍮(銅と亜鉛の合金)、銀はアルミ、パールは雲母(鉱物の一

種)を酸化チタンなどで覆った物質が主成分です。

ひとえに金・銀・パールといっても、複数の色合いが存在します。

蛍光インキ

文字通り、鮮やかな蛍光色を放つインキです。

紫外線を吸収して可視光域(人が認識できる光)の色に変換する物質の働きを利用しています。明るい色ですが耐光性に乏しく、色あせが早いため、屋外で用いる印刷物には不向きです。

蛍光インキだけでもインパクト大な演出が可能ですが、プロセスインキとの併用も魅力的(コストはかさみますが…)。

香料インキ

香料が閉じ込められたマイクロカプセルを含むインキです。表面(インキ皮膜)をこするとカプセルが割れ、香りを放ちます。

ラベンダーやローズといった花の香り、レモンやミント、バニラやチョコレートなどのさまざまな香りを製造することができます。香水サンプルで頻繁に使われますが、カタログやポスターなどにも応用可能です。

ブラックライト発光インキ

ブラックライトを照射することで鮮やかに発色するインキ。ブラックライトを当てていない場合のインキ皮膜はほぼ無色透明です。こうした特性を生かして、有価証券などの偽造防止対策に用いられます。また、ブラックライトが設置可能な施設などにおけるノベルティグッズとしても活用されています。

以上です!「ちょっと変わったインキで印刷してみたい」などなどございましたら、お近くの印刷会社に相談してみてください…!

ちなみに私たちインサツビトが提供するデジタルオフセット印刷は、多様なインキに対応しております! 一度で7色印刷が可能で、通常のCMYKのインキに特殊インキをプラスすることで、多彩な印刷表現を実現できます。

「え、気になる」という方は「インサツ相談」からぜひお問い合わせください! 宣伝失礼しました!笑


気を取り直して、ここまでご覧いただきありがとうございました! 平版オフセット用のインキだけでも内容盛りだくさん…。本当はインキの組成や乾燥方法についても触れたかったのですが、長くなりそうなのでいったん筆を置きます。

最後に! 今回の要点は以下の通りです!


まとめ

●フルカラー印刷はCMYK(シアン・マゼンタ・イエロー・ブラック)の4色で再現されている!

●そして印刷物の正体は「網点」という小さな点の集合体!

●「網点」の大小によって、色の濃淡が表現されている!

●フルカラー印刷で用いられるCMYKのインキを総称して「プロセスカラー(インキ)」という!

●フルカラー印刷で「白色」を表現したい場合は、「インキを使わない(用紙の地色を利用する)」が正解!

●「特色インキ」は、プロセスカラーが苦手とする淡い色や鮮やかな色を印刷する時や、「必ずこの色」と決められている場合に有効!

●印刷物にインパクト大な演出を加えたいときは「特殊インキ」の使用を検討してみる(印刷コストがかさむけど)!

参考文献

●佐々木剛士・島崎肇則・西村希美(2016)『「伝わる」印刷物の基本ルール』誠文堂新光社

●生田信一(2017)『[改訂版]印刷メディアディレクション』株式会社ボーンデジタル

●佐藤利文(2019)『みんなの印刷入門』JAGAT(公益社団法人日本印刷技術協会)

●生田信一・板谷成雄・スズキアサコ・西村希美・山本 州(2020)『印刷&WEBコンテンツ制作の基礎知識』玄光社

●生田信一・西村希美・加藤諒編(2021)『DTP&印刷スーパーしくみ事典2021』株式会社ボーンデジタル

参考サイト

・印刷インキ工業連合会「暮らしを彩る印刷インキ」

https://www.ink-jpima.org/ink_kurashi.html

閲覧日:2021年8月3日

・印刷屋さんドットコム「印刷用インキの種類について」

https://www.insatsuyasan.com/data/ink.html

閲覧日:2021年8月4日

・印刷のSprint「オフセット印刷の表現」

https://www.suprint.jp/guide/technical/datacaution/da008.html

閲覧日:2021年8月11日

・一般社団法人 日本印刷産業連合会「印刷用語集」

https://www.jfpi.or.jp/webyogo/index.php?term=2537

閲覧日:2021年8月17日

・久保井インキ株式会社 各種インキページ

閲覧日:2021年8月19日

・株式会社吉田印刷所「DTP・印刷用語集」

https://www.ddc.co.jp/words/#gsc.tab=0

閲覧日:2021年8月19日

Topへ戻る